Publications
setsunan.repo.nii.ac.jpJan 2024

MATE 型トランスポーターの阻害剤に関する研究

新屋進,
Product Used
Genes
Abstract
薬剤耐性菌が増加し、以前は有効だった抗菌薬が効かなくなることで、薬剤 耐性菌感染症の死亡者が増加、また侵襲的治療や免疫抑制療法が制限されるこ とが問題となっている。一方で、新しい作用機序に基づく新規抗菌薬は 1987 年以来誕生していない。そのため、薬剤耐性菌は年々増加の一途を辿ってお り、新たな対策を講じなければ 2050 年には薬剤耐性菌が原因で年間 1000 万人 が死亡すると予想されている[1]。したがって、薬剤耐性菌に有効な新薬の開 発は喫緊の課題となっている[2]。本研究では、従来の抗菌薬とは作用機序が 異なる薬剤排出機構の不活性化に注目し、薬剤耐性菌に対する新たな創薬アプ ローチの確立を目指した。 細菌が抗菌薬に対して耐性を獲得する機構は、膜透過性の低下、抗菌薬を不 活性化する酵素の産生、結合部位の変異、バイオフィルムの形成、薬剤排出ポ ンプの過剰発現などが挙げられる[3]。なかでも薬剤排出ポンプは、さまざま な種類の抗菌薬を細胞外に排出するため、細菌が多剤耐性を獲得する原因とし て注目されている。したがって、この薬剤排出ポンプの機能を抑制する阻害剤 は、多剤耐性を消失させる効果が期待できる[4, 5]。本研究の目的とする薬剤 排出ポンプ阻害剤は、直接的に細菌の増殖を抑えるものではない。言いかえれ ば、既存の抗菌薬と同時に服用して抗菌薬の効きを強めるものである[6-8]。 薬剤排出ポンプ阻害剤は、既存の抗菌薬と組み合わせることで薬剤耐性菌に対 する有効な手段となり得る。 薬剤排出ポンプの一種である MATE 型トランスポーターは原核生物からヒト など高等真核生物にいたる全ての生物種に発現しており、膜タンパク質として 分類され、細菌では細胞内に取り込まれたフルオロキノロン系抗菌薬、アミノ グリコシド系抗菌薬など複数の抗菌薬、さらに抗がん剤のような細胞毒性化合 物を排出し、最大 16 倍の薬剤耐性が生じることが報告されている[9-11]。一方 で、ヒトでは腎臓で老廃物を排泄する役割を果たしている。そのため、MATE 型 トランスポーターを非選択的に阻害するとヒトでの腎障害といった重大な副作 用につながる恐れがある[12, 13]。したがって、感染症の治療を目的とする MATE 型トランスポーター阻害剤にはヒトに影響を与えない細菌選択的な作用が求め られる。 MATE 型トランスポーターに関する国内外の多くの研究グループは、薬剤排 出機構の解明を目指したタンパク質の構造解析研究が主流であり、機構の解明 が進められてきた。一方で、MATE 型トランスポーターを標的とした創薬研究 はいまだ報告例が少ない。そのため、細菌の MATE 型トランスポーターを選択 的に阻害する化学構造は明らかにされてはいない。そこで我々は毒性に関わる 5 ヒト MATE 型トランスポーター (hMATE1) の阻害作用について重要なファー マコフォアを先回りして明らかにし、その化学構造を回避した探索合成から細 菌 MATE 型輸送体を選択的に阻害する化合物の創出を目指した。 第 1 章では、hMATE1 とそれを阻害するシメチジンとその類縁体との構造活 性相関について検討し、hMATE1 を阻害する構造的特徴を明らかにした。本研 究結果は、hMATE1 阻害に由来する薬物間相互作用や副作用を回避するための 創薬に応用できる可能性がある。 第 2 章では、細菌 MATE 型輸送体を選択的に阻害するヒット化合物を発見し、 さらに合成展開することで副作用の原因となる細胞毒性なしで薬剤耐性を 92% 消失させる化合物の創出に成功した。この発見は、これまで難航してきた「細 菌選択的な薬剤排出ポンプ阻害剤」を開発する足掛かりとなり、薬剤耐性菌の 問題を解決する糸口として期待される。 第 3 章では、細菌に対する選択性を保持したまま、阻害作用に決定的な影響 を与える化学構造を明らかにし、強力に作用するリード化合物の創出を目指し、 さらなる構造最適化を行った。その結果、各部位の最適化構造に基づいて合成 したペンタフルオロスルファニル化合物 96 (EC50=1.8 µ M) が得られた。本研 究 で 明 ら か に な っ た MATE 阻 害 剤 の 構 造 活 性 相 関 に 関 す る 知 見 は 、 細 菌 の MATE 型トランスポーターによる薬剤耐性を克服するためのさらなる取り組み に貢献することが期待される。 以下、三章にわたり論述する。
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